最高裁判所第一小法廷 平成4年(さ)2号 判決 1992年10月15日
主文
原略式命令を破棄する。
被告人を罰金五万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
長門簡易裁判所は、昭和六二年六月一七日、「被告人は、酒気を帯び、呼気一リットルにつき0.25グラム以上のアルコールを身体に保有する状態で、かつ、運転免許証を携帯しないで、昭和六二年六月七日午前零時八分ころ、山口県長門市<番地略>付近道路において、普通貨物自動車を運転した」との事実を認定した上、道路交通法一一九条一項七号の二、六五条一項、同法施行令四四条の三、同法一二一条一項一〇号、九五条一項、刑法五四条一項前段その他の関係法条を適用し、被告人を罰金七万円に処する旨の略式命令を発し、この命令は昭和六二年七月二日確定した。しかし、道路交通法一一九条一項七号の二の罪の法定刑は「三月以下の懲役又は五万円以下の罰金」、同法一二一条一項一〇号の罪のそれは「二万円以下の罰金又は科料」であるところ、原略式命令が被告人の所為は一個の行為で数個の罪名に触れる場合に当たるものとして刑法五四条一項前段を適用したのは正当であるから、本件については、重い道路交通法一一九条一項七号の二の罪の刑で処断すべきであり、罰金刑を選択した場合には、その処断刑の多額は五万円となる。したがって、これを超過して被告人を罰金七万円に処した原略式命令は、法令に違反し、かつ、被告人のため不利益である。
よって、刑訴法四五八条一号により、原略式命令を破棄し、被告事件について更に判決することとする。
原略式命令の確定した事実に法令を適用すると、被告人の所為のうち、酒気帯び運転の点は道路交通法一一九条一項七号の二、六五条一項、同法施行令四四条の三に、運転免許証不携帯の点は同法一二一条一項〇号、九五条一項にそれぞれ該当するところ、右は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により、重い道路交通法一一九条一項七号の二の罪の刑で処断することとし、所定刑中罰金刑を選択し、その金額の範囲内で被告人を罰金五万円に処し、換刑処分につき刑法一八条を適用し、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官味村治 裁判官大堀誠一 裁判官橋元四郎平 裁判官小野幹雄 裁判官三好達)